われわれの手で原因をつくらない
日常行なうあらゆる処置が歯周疾患の原因となってはならない。
歯周組織や歯牙支持組織が健全であってこそ、修復物などの永続的な目的が達成されることを理解認識してもらう。歯周疾患予防・治療のためには、不適合修復物の装着を避けるべきは一般的な見解であるが、反面、不用意な教育のため、現実には不適合修復物とりわけバケツ冠が氾濫している。
(昭和10年開業以来、ただ一つの縫成冠も装着していないし、ファイナルマージンは歯肉縁下に設定していない)要約
現場からの具体策
- 修復物の対咬関係については、過高はもちろん低すぎることについて、十分注意する。
咬合回復の必要のある場合、修復完成までのわずかの期間でも咬合欠如のための歯牙支持組織の異常、歯牙の挺出が行なわれるために修復物が過高の状態になり、そのために削合が行なわれたならば、隣接触異常が起こり、隣在歯の移動と広範囲の咬合干渉が起き、支持組織に咬合性外傷を与える。
形成後装着までの咬合回復保持について十分な考慮が必要で、少なくともレジンなどによる暫間修復物がすべてのケースに行なわれなければならない。
- 少数歯欠損補綴法として多く用いられる架橋義歯の支台歯が受ける過重負担の影響。
患者の年齢により順応の範囲がそれを越えるかは異なるとしても、すべて生理的なものとはいえない。したがって過重負担からくる咬合性外傷を防止し、歯周疾患の素地を与えないように、頬舌的に狭少すること、ダミーの形態については粘膜接点・支台歯隣接形態が清掃効果を高めるようカントウアー(contour)に注意しなければならない。
- 局部床義歯の鈎歯の負担過重はどのような方法をとろうとも、必ず考えなければならぬ問題。
負担に耐えられるよう数歯の固定を行ない、鈎に括約力があってはならない。鈎歯隣接床縁は、鈎歯歯周部から必ず2〜3mm以上間隔をおく。鈎歯の欠損歯側歯面、床の鈎部に対する特殊な清掃法を必ず指導する。
歯牙喪失は残存歯の隣接触、対咬関係などの異常をきたし、また欠損歯の修復のためには残存歯に過重な負担がかかることは避けられない。旱まった技術を行なわないよう、あらゆる努力を傾け保存治療を行なうべきで、髄床底穿孔あるいは残根状態の歯牙をも保存することに努める。
(問題とは直接関係ないが、このような場合の治療にラバーダム防湿はほとんど役に立たない。したがってロール綿花などによる完全防湿を習熟しなければならないし、根管治療以前に周囲組織の健全化と清潔保持について、あらゆる方法で可能の限界を守らなければならない。残根状歯の保存回復には、根管に維持を求めなければならないために、自家製のロングシャンク・コントラ用バーを30年来使用している。埋伏位置異常第3大臼歯で異常加圧の考えられる場合は、すべて抜歯する)
- 歯牙欠損のあらゆる場合に暫間保隙装置を行ない、特に上下咬合関係に注意する。
咬合不正の歯周組織に対する為害作用を注意し、できるだけマイナーの移動を行なう。
- 修復物の咬合面形態、面積、対咬関係について細心の注意をはらう。
- 一般体調についての配慮は、あらゆる病因に対する抵抗減弱を防止するための基本になるもので(衛生)、歯周病予防のためには、すべての全身的疾患はもちろん、過労、睡眠不足、精神的ストレスなど発病以前の状態まで歯周病発症の誘因となるために、回復までの間は特に歯垢除去に努めなければならないことと、療養中歯周組織に影響を与える薬剤、特にビスムス、ダイランチンなどについて注意する。
- 病臥中の歯口清掃は特に重要で、看護の主要事項とする。
また日常の食品について、酸アルカリ両食品のバランスを、その人の精神活動面を考慮しながら相談し、話し合うことも必要。
根性
歯周疾患を臨床の現場で予防しようとするならば、総義歯のために来院する人たち以外のすべての患者、それはまれに初発予防の患者であったり、悪化予防—増悪防止のための早期治療であったり、また再発防止の定期受診であったり、時にはむし歯のために抜歯を望む患者に早まった抜歯を思い止どまらせたり、かぶせて治せという患者に縫成冠の歯周組織への為害性について説明したり、またその患者の下顎前歯は増悪予防の早期治療であり、臼歯部は初発予防の予防処置あったりするであろう。どれもこれもすべてが歯周病悪化防止・予防のための現場活動ということができよう。
歯周疾患のために日常の生活を不快にしたり、歯牙脱落のための精神的、肉体的、社会的損耗を防止するために、医療効果の十分期待できる早期治療、再発の予防に努力することは、この世の中から病苦を剪除し、延命をはかる医の本質に立って、われわれの社会的使命を果たす根本的性格=根性であると考える。
根性があるとか、根性の持ち主などと言囃されることは、根性をもって職責を遂行する者の稀であることを嘆息し、多く現われんことを切望する声なき声であろう。
根性は教育により涵養され、体験により触発され、思考により強化され、行動により定着する。
根性の持ち主の少ないことを嘆くことは、教育の形骸化を嘆くことである。敗戦後、歯科医学教育は大学教育に昇格はしたが、科学として生物学的歯学の細分教育と、あまりにも不徹底で、無目標とも思われるほどの2ヵ年間の教養期間がついただけだとすると、根性も商魂となるかもしれない。
ともあれ、どのような現場に立とうとも、根性が座り、根性丸出しで動けば、その時、その場所、その相手に対し、具体的で有効な方策は必ず生みだされるものと信じている。
歯界展望 第37巻 第6号 昭和46年6月 から
- 修復物の対咬関係については、過高はもちろん低すぎることについて、十分注意する。